一見さんお断りの本当の理由
朝礼ネタ2520 2021/01/01 故事ことわざコミュニケーション「一見さんお断り」で有名な京都の花街。
そこで遊ぶことは、地位や裕福さを誇るような単なるステータスではありません。
それが証拠に、店先でトランクケース一杯の札束や有力代議士の名刺を見せつけても、
「申し訳けおへん、今日は予約で一杯ドス」と女将に丁重に断られてしまいます。
この花街で最重要視されるのは、金や地位ではなく信用です。
それも長年に亘って客と店の間に培われたそれなのです。
そんな店の一つが「茶屋」です。茶屋は遊びの席だけを提供するの店ですが、
仕出し料理や芸舞妓の手配から土産や二次会やタクシーの世話まで、遊びの一切合切を引き受けます。
そしてその支払いは全て「ツケ」でその場での現金の遣り取りは全くありません。
後に請求書が送られて来ますが、その中には芸舞妓への祝儀や食事代の典膳も含まれることもあります。
そして客は値切ることは絶対にありません。
そこには、その店が法外で理不尽な請求をするはずがなく、
その客が支払いを渋ったり踏み倒したりしないという両者の暗黙の了解があり、それが互いの信用なのです。
そのような信用は一朝一夕にはできません。
客が支払いに綺麗なのは当たり前で、花街特有の数多あるご祝儀、お見舞い、お礼など節目礼節に付いて回るコトを果たし、
お店はそんな客のために、南座の切符や御所・離宮拝観の手配など、花街遊び以外の世話も惜しみません。
遊びの客と店というだけ以上の深いその関係は、
客が満足するように全力を尽くす店と、店の人が気持ちよく働けるよう気遣う客の、
互いの真心によって培われていきます。
それが花街における客と店の、互いに対する信用であり、その信用を育み守ることこそが一見さんを断る本当の理由です。
本当の信用とは事程左様に難しく、そして大切なものだと再認識させられます。