真実は時の娘、権威の娘ではない
朝礼ネタ2650 2021/01/01 故事ことわざメディア・ニュース名言・格言ミステリー好きの方には有名な作品に、ジョセフィン ティの「時の娘」という本があります。
タイトルはフランシス ベーコンの言葉「真実は時の娘であって、権威の娘ではない」からきているそうです。
今から70年近く以前に書かれたこの作品は、探偵役がひとところから動かず(あるいは、動けず)に展開していく形式の先駆けです。
探偵役の主人公は骨折のために入院中のスコットランドヤードの刑事です。退屈を見かねた友人たちが様々な本を差し入れたのですが、ある一冊の本、というより「一枚の肖像画」に目を止めたところから物語が始まります。
上質そうな黒い服と帽子に、古風で繊細な金細工を身につけた壮年の男性。顔はやや青白く、思いつめたような真面目な表情は前に組まれた繊細な指と相まって生真面目な印象をさらに強調している…
21世紀の現在でもイギリス王室が所有する有名な肖像画です。シェイクスピアでも名高い、リチャード3世です。というよりは逆で、シェイクスピアで悪役の権化として描かれたために悪人の代表となったと言えるのですが。
人を見る目がある、と自認するこの主人公の目には、この絵が気になりました。つまり「自分の兄を殺し、兄嫁を奪い、幼い甥たちを殺した挙句に横死した極悪人」には見えなかったからです。
かくして刑事は机上の捜査に入ります。この手順がとても興味深いのです。信用できる証拠をあたり、信用できる証言(歴史史料)を一つ一つ精査していくのです。
現れたのは歴史の改ざんでした。次代の王朝にとって不都合な事実は多くが封印され、街の芝居小屋にはセンセーショナルな切り取られたパーツが一人歩きし、シェイクスピアの描いた「リチャード3世像」が定着していったのです。
しかし肖像画は残ったのです。
個人とメディアが現在ほど密着した時代はないでしょう。情報やイメージが凶器になっているニュースもよく聞きます。いつか現れる真実に恥じないように、日々を送っていきたいと思います。